法人税申告書のお話 にわとりが先か?卵が先か?「法人税申告書 別表四」は「税引後利益」からスタート
法人税申告書別表四(簡略様式、以下簡略様式は省く)の一番上「当期利益又は当期損失」は、法人税等を引いた後の利益を意味する。
つまり、損益計算書でいうところの税引後当期利益というもの。
だが、ちょっとまてよ。
そもそもの税金額がわからないのに、税引後利益から始まるとは
一体どういうことなのだろうか。
税引後利益から計算を進めることができないじゃないか。
法人税申告書の別表四と損益計算書
確定決算主義の下、税引後利益でつながる「損益計算書」と「法人税申告書 別表四」
「法人税申告書の別表4」は、確定決算主義に基づき課税所得を表現するものだ。
法人税の課税標準は、確定した決算に基づいて計算される。この課税標準は、原則として、法人が自ら計算し、その明細を法人税申告書に記載して申告するいわゆる申告納税方式が採用されている。
税務研究会 税務用語辞典 確定決算の意義 より
確定決算主義の下、確定決算より「損益計算書」が現れる。
ここでいう「確定決算に基づく利益」は、税引後当期利益なのだ。
課税所得金額を計算する
(1) 法人税の申告は、法人がその決算に基づく計算書類につき株主総会の承認、総社員の同意その他の手続による承認を受けた後、その承認を受けた決算に係る利益の計算に基づいて税法の規定により所得金額の計算を行い、その所得金額及び利益の計算とその所得金額の計算の差異を申告書において表現するものであること
税務研究会 税務用語辞典 確定決算の意義 より
「決算に係る利益の計算に基づいて税法の規定により所得金額の計算を行い、」が
確定決算の利益≠課税所得 を意味している。
そして「所得金額の計算の差異」を「別表四」で表現する。
差異の詳細については今回は書かない。
別表四の目的は、「確定決算に基づく利益」、その利益を「課税所得へ転化」していく調整過程を表現するものと考えられる。
つまり、「損益計算書」と「別表四」は「税引後利益」で繋がっている。
課税所得計算の方法 実際はどうやっているのか
損益計算書と別表四が税引後利益で繋がっているのはいいだろう。
だが実際どうするのだ。
それは簡単。
別表四を使って税引前利益から、課税所得を算定する。
算定方法は「損益計算書」の「税引前利益」を、そっくりそのまま別表四の「当期利益又は当期損失」に放り込む。
そして別表四を使って、必要な加算項目、減算項目を調整し課税所得算定。
めでたしめでたし。ただ調整は結構大変だ。
損益計算書で算定した「税引前当期純利益」を使う。
「法人税申告書の別表四」の「当期利益」
課税所得を出す目的で別表四を利用して加減算調整するので、
加算項目にある「損益計算書の法人税等」にあたる「損金に計上する納税充当金」は一旦無視する。ゼロでかまわない。
「当期利益又は当期欠損の額」に「税引前利益」を、
「税引前の利益」に加算項目、減算項目で調整を加えていきさえすれば、
課税所得が算定できるというだけ。
損金の額に算入した納税充当金をゼロとすれば
別表四で課税所得を算定し、別表一などで税金額を計算する。
この税金額が、一応の「損金経理をした納税充当金」になる。
損金経理をした納税充当金は、
別表四の表現技法的なもので課税所得計算の算定に無関係。特殊な項目だ。
加算の部分で、税引後の利益⇒税引前の利益にしているだけ。
キャッシュ・フロー計算書の間接法と似ているようなそうでもないような。
別表四をつかった「課税所得計算」そして別表四完成
課税所得計算
「当期利益又は当期損失」に「税引前利益」を記載する。
「損金の額に算入した納税充当金」以外の「加算項目」及び「減算項目」を別表4に記載する。
課税所得は「税引前利益」+「加算項目」計 ー「減算項目」計だ。
「法人税申告書別表4」の作成
上記で計算した「当期課税所得」により、法人税等の金額を計算する。
損益計算書に「法人税等」を記載、又は入力(ソフト等)することにより、「税引後利益」を計算する。
「法人税申告書別表4」の
「当期利益又は当期損失」に「税引後利益」を記載又は入力する。
「損金の額に算入した納税充当金」に損益計算書の法人税等の金額を記載又は入力する。
具体的金額例
やっぱり具体的な数字が必要だ。
法人税をまったくしらない方、完全無視で進む。用語の説明も省略。
計算例の注意
税金の計算については自己責任です。
また、税務制度は頻繁に改正があります。
この記事を鵜呑みにしないで、ご自身で計算根拠の裏付けを得るなどお願いします。
設定
事業年度は平成31年4月〜令和2年3月
資本金500万。
非中小法人に該当しない。
東京都特別区とする。
1箇所だけ
従業者数は10人
税効果はなし。
加算項目と減算項目は次の通り。
税引前当期利益 :1,000,000
減価償却超過額 :40,000 (加算項目 留保)
受取配当金不算入額 :20,000 (減算項目 留保)
課税所得計算
税引前当期純利益(項番1) : 1,000,000
加算項目の合計 : 40,000(プラスする)
減算項目の合計 : 20,000(マイナスする)
課税所得 (項番47) : 1,020,000
まず法人税額、地方法人税額を出す。
本当に手計算で税額って面倒とあらためて思い知る。
課税所得は1,020,000とひとまず算定した。
こんな読みにくい記事をここまで、読み進めていただいている。そんなあなたなら知っているはずだ。
地方法人税。法人税額を課税標準とするやつ。
法人税別表一は地方法人税額を算定するようになっている。
法人税額
(50)によれば8,000,000を超えない部分の税率は15%。
課税所得に1,020,000 (正確には8,000,000×12ヶ月/12 と、どちらか小さい金額)
法人税額は1,020,000 × 15.0 = 153,000
(平成31年4月1日現在法令等)
法人税率表
区分 | 適用関係(開始事業年度) | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
平28.4.1以後 | 平30.4.1以後 | 平31.4.1以後 | |||||
普通法人 | 資本金1億円以下の法人など | 年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% | 15% | 15% | |
適用除外事業者 | 19% | ||||||
年800万円超の部分 | 23.40% | 23.20% | 23.20% | ||||
上記以外の普通法人 | 23.40% | 23.20% | 23.20% |
メモ
適用除外事業者
その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人等
地方法人税額
改正前後の地方法人税の税率は次の通り
課税事業年度 | 地方法人税の税率 |
---|---|
令和元年10月1日前に開始した課税事業年度 | 4.4% |
令和元年10月1日以後に開始する課税事業年度 | 10.3% |
令和元年10月1日より前に開始しているので、4.4%を使う。
地方法人税額は 153,000 x 4.4 = 6,732
100円未満を切り捨てて 6,700
やっと法人税と法人地方税が判明(別表一を使う)
ここまででも随分わかりにくいので、少し画像を。
フリーウェイ税務という無償のオンラインサービスを使ってみた。
別表一は2ページになっている。
1ページ目では法人税額、法人地方税額のまとめ。
2ページ目で、法人税額、法人地方税額の計算根拠を示す欄が
設けられている。
地方税額を出す
都民税:89,700
事業税:49,500
あわせて 139,200
都民税法人税割:
153,000 × 12.9% = 19,737
100円未満を切り捨てる 19,700
都民税均等割(第六号様式別表四の三):
70,000
都民事業税:
所得割:1,020,000 × 3.4000% = 34,600
特別法人事業税
所得割:34,600 × 43.2% = 14,932
100円未満を捨てる 14,900
均等割の金額、税率の根拠をぶっとばしてしまっているが
各自治体のホームページ等でご確認を
税務申告ソフトを使う場合であっても確認が必要
だが、実際問題提出先が数百もあると大変だ
法人税等の額を算定して合算する
法人税等:298,900
法人税:153,000
地方法人税:6,700
都道府県民税:89,700
都道府県民事業税:49,500
ちなみに損益計算書の記載
税引前当期純利益 :1,000,000
法人税等 :298,900
税引後利益 : 701,100
別表4への記載
税引後利益を「当期利益又は当期損失」を701,100
法人税等の金額「損金の額に算入した納税充当金」に298,900
「当期利益」701,100
「損金の額に算入した納税充当金」298,900
また、字ばかりではわからないのでフリーウェイ税務で申告書を印刷した。
[1]当期利益又は当期損失の額 1,000,000を701,100に変えている
[4]損金経理をした納税充当気 0を298,900としている
損金の額に算入した納税充当金はぴったり出さなくてもいい?
いわゆる中小企業は申告期限の決算2カ月後までぎりぎり時間を掛けて
税金計算ができる。1円単位で「損金の額に〜」をぴったり合わせることが
できるだろう。
なお、中小企業と表現しているが、中小企業庁のいう「中小企業」とは
意味がことなる。
税務上の中小企業は原則資本金1億円以下だ。
(ただし、大法人の完全子会社などの例外がある)
一方、証券市場に上場している会社(上場準備含む)の場合、
決算日後10~20日ぐらいで決算を締めなければならない。
決算短信(短信)の45日ルール、法定監査や連結決算がつづく。
こういったスケジュールなので、税金計算が決算後、
未確定な事項があるとかなんとか理由をつけて
若干遅れていても問題がないことが多い。
細かい計算であわせるのも大事だが、開示ルールのスケジュールで
だいたいの税額をだいたいの期日を定めて算出していく。
概算であっても未払法人税等の計上額を決めてしまうほうが、
なにかと有用だ。
ただ、計上額について後から税務上処理をわすれていたとかはある。
そのため、バッファー(クッションともいう)を上乗せして未払法人税等に
計上するのは通例だ。